晦日大祓と夏越の祓
茅の輪神事は茅の輪をくぐることで禊(みそぎ)をして、半年間で貯まった罪や穢れを祓い清めて、災厄をリセットして予防する儀式です。12月31日と6月30日に行われ、それぞれ『晦日大祓(みそかおおはらえ)』と『夏越の祓(なごしのはらえ)』と言われています。特に梅雨の時期から夏にかけては、天然痘などの疫病がはやることが多かったようです。後で説明しますが、そういった疫病除けに茅の輪が有効と考えられていたようです。
ところで、『禊』という概念は次のような日本神話から始まりました。女神のイザナミは、火の神を生むときに火傷をして亡くなってしまいます。妻の死を悲しんだイザナギは、黄泉の国という死後の世界にいるイザナミのもとを訪れますが、そこで腐敗したイザナミの体を見てしまい、逃げてきてしまいました。ブチきれたイザナミは、以降、人を毎日1000人殺すことを宣言しました。それに対してイザナギは、人を毎日1500人誕生させることを宣言しました。
黄泉の国から逃げ出してきたイザナギは、水の中に入って黄泉の国で身についた穢れを洗い流します。左目を洗うと天照大神(あまてらすおおみかみ)が、右目を洗うと月読命(つくよみのみこと)が、鼻を洗うと建速須佐之男命(すさのおのみこと)が、それぞれ生まれました。少子化対策は、イザナギにお願いしなければなりませんね(笑)。
ちなみに2008年の日本では、出生数が109万1150人、死亡数が114万2467人なので、1日に約3000人が生まれ、3100人が死亡するようです。神話とまんざら遠くない数字ですね。
ここで注目したいのは、イザナギが、左目→右目→鼻の順番で洗ったことです。
神道の清めやお祓いには、左→右→左という順番が存在します。
例えば、
(1) 神社を参拝する前に左→右→左の順番に手を洗う。
(2) 清めの塩を左→右→左の順番にまく。
(3) 神職が大麻(おおぬさ)を左→右→左の順番に振る。
(4) 切麻(きりぬさ)を左→右→左の順番に体にかける。
イザナギが洗ったのは、あくまでも左目→右目→鼻の順番ですが、これが左→右→左の順番の原型と言われています。こういった例から見ても、左→右→左の順番で茅の輪をくぐるのもごく自然なお祓いの流儀であることがわかります。
茅の輪くぐり
次に、どうして「茅の輪」をくぐるのかということですが、次のような話に由来しています。
旅の途中、疫病神(やくびょうがみ)の牛頭天王(ごずてんのう)はその土地に在住する兄弟に宿を乞いました。このとき、リッチな弟の巨旦将来(こたんしょうらい)は泊めてくれなかったのですが、ビンボ〜な兄の蘇民将来(そみんしょうらい)は泊めてくれました。牛頭天王は、旅の帰りに再びこの地を訪れ、蘇民将来の一族に茅の輪をつけさせた上で茅の輪をつけていない巨旦将来の一族を疫病で皆殺しにしました。そして牛頭天王は、今後も疫病神として現われることがあっても、蘇民将来の一族だけは助けると約束しました。
牛頭天王は、インドの祇園精舎の守護神ともいわれますが、牛の頭をした疫病神でもあります。その疫病神が、疫病を感染させるかどうかの判定に使ったのが、茅の輪だったわけです。ここで、普通に考えてみると、疫病神を自宅に泊めるのは、プレッシャーかかりますよね(笑)。もしも居座ってしまったら大変です。牛頭天王は、家に泊めてもらいたいのであれば、疫病神をやめるべきで牛頭天王のとった行動は「逆切れ」といえるかと思います(笑)。いずれにしてもこの厄病神の牛頭天王を祀っているのが京都の八坂神社で、牛頭天王が暴れないようご機嫌をとるお祭りが祇園祭なんです(笑)。